小原啓渡執筆集「諸行無常日記」
2008.07.23
時計
「と」、「時計」で。
もう10年くらい前になるでしょうか、ロンドンのアンティークショップで、
「ローレックス 1960年」と書かれてある時計を見つけました。
思わず目をとめたのは「1960年」が僕の生まれ年だったからです。
「僕と同じ時間を刻んできた時計だ」と思うと、妙に親しみを感じ、手にとって見せてもらいました。
革バンドで、文字盤はベージュがかったほのかなピンク、今までに見たことのないタイプのローレックスでした。
ローレックスを買えるような身分でもなく、その時はほとんど現金も持ち合わせていなかったのですが、どうしても欲しくなって、当時持っていたクレジットカードでもし買えたら、買おうと決めました。
そのことを、店の人に話し、カードをチェックしてもらいました。
幸か不幸か、カードは通りました。
ところが、意気揚揚、日本に持ち帰って使い始めてすぐに動かなくなり、ロレックスの代理店に持っていきました。
ちょうど僕の前のお客さんも修理に来られていたのですが、お店の人から「申訳ございません、これは当社の正規品ではないので、ご修理承ることができません」と言われて、動揺しているのを見て、「もしや僕のも偽物?」とかなり焦るはめになりました。
正規のショップではなく、アンティークショップです。
しかもよく見かけるローレックスとは微妙にタイプが違い、値段も比較的安くて、すぐに動かなくなった。
「あ?、どう考えても偽物や・・・、でも自分が気に入って買ったんだから、まあ、ええか」とまあ、その時点で、自分を慰めるモードに入っていました。
結果は、「本物」。
過去の所有者の情報や修理記録まで詳細に残っていて、さすがにローレックスだなと感心しましたが、「分解修理が必要ですね、修理代は7万くらいです」と言われて、僕はすごすごと時計を持ち帰ったのでした。
そして、このロレーックス、今でも故障したまま僕の机の中で眠っています。
小原啓渡