小原啓渡執筆集「諸行無常日記」

2008.06.21

「ほ」、「本」で。

僕には「師」と呼べるような人がいなかったので、特に哲学的な領域においては「本」から学ぶことが多かったように思います。

ただ、衝撃的な影響を受ける「本」に巡り会うという事はそうそうあるものではないですね。

「本」といっても結局のところ、作家ということになるのだと思いますが、僕が最初に思想的に傾倒したのは「サルトル」です。
そして、そのきっかけになった「本」が、「水いらず」。
「水いらず」は5編が収録された短編集ですが、特にその中でも「壁」という作品に衝撃を受けました。

今までの人生の中で、もっとも憂鬱で、もっとも後ろ向きだった高校時代、読み返すだけでは飽き足らず、サルトルの「壁」を何度も原稿用紙に書き写すことで、なんとかギリギリのバランスをとっていました。
(先日少し書いたドストエフスキーの「地下室の手記」もそうですが、この「壁」も、人間の極限状態での思考を扱った作品です)

「本」との出会いは、自分がその時どんな精神状態かによって、その影響は大きく変わると思いますが、世界的な哲学者や思想家に「本」を通じてとはいえ、出会えるわけですから、やはり積極的に出向いて行く(読む)べきだと思います。

「いかなる人間も生きながらに神格化されるには値しない」
そう言い放って、ノーベル文学賞を辞退したサルトル。

これほどの作家にいつでも会える(読める)のに、会わないのは、やはりもったいないと僕は思うのです。

小原啓渡

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