小原啓渡執筆集「諸行無常日記」

2008.04.03

檸檬

「れ」、「檸檬」で。

レモンをあえて漢字で書いたのは、梶井基次郎の小説「檸檬」に関して少し書きたくなったからです。

確か中学時代、国語の教科書でこの小説のくだりを読んだと思うのですが、文章の繊細さに比べ、何とも無骨な感じのする梶井基次郎の顔写真が強く印象に残っています。

彼自身が結核で早世していることを考えると、小説の主人公は彼本人だったと察することができますが、
肺病で熱を帯びた手で感じ取った檸檬の冷たさに関する描写には、胸を打つ切ないリアリティーがありましたね。

田舎の高校から京都に出てきた時、清水寺や金閣寺といった観光名所以外で僕が知っていた数少ない情報の一つが「丸善」でした。
主人公が、時限爆弾にみたてて檸檬を置いて立ち去った文具店(書店)の名前です。

京都に住み始めてまっ先に行ったのも「丸善」、
ブックカバーのシンプルなデザインが好きだったこともあり、本を買うなら「丸善」と決めていました。

「檸檬」に出てくる当時の丸善が、「アートコンプレックス1928」と同じ町内にあったということを知った時も、妙に嬉しかったですね。

残念ながら「丸善」は数年前に閉店し、もう京都にはありませんが、
僕の記憶に残っている、思い出深い場所の一つです。

小原啓渡

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