小原啓渡執筆集「諸行無常日記」

2008.01.23

優勝

今回は、や行の「い」?です。
「や、い、ゆ、え、よ?」
このや行の「い」と「え」は何なんですかね?(あ行のと、どう違うの?)
まぁ、調べるのは後にして、一応「重複」ということで、今日は「ゆ」。

「夢」とか「友情」とか「勇気」とかありますが、今日は何となくこの辺を書くのが気恥ずかしので、「優勝」とか。

「僕って何かに優勝したことあったっけ?」と自問。

これが、ほとんど思い浮かばないのですが・・・・。
一つは、中学時代のマラソン大会。
もう一つは、高校時代の「逆立ち競争」?

僕の高校は、公立ではそこそこの進学校でした。
が、どう贔屓目にみても、つまらなかった。
(当時の話ですが・・・)
とにかく、やたらと、異常に、「硬い」。

ダサい学生帽と名札まで着けさせられて、登校時には生活指導の教師が校門に立って、髪型や制服のチェック。(中学ではなく、高校ですよ!)
学級委員は成績順で決められ、勉強のことしか考えるな!的な雰囲気が充満していました。

じゃあ、なぜ、こんな高校に下宿までして入ったのか?

中学時代から付き合っていた彼女が、この高校に行くと言ったから。
理由はそれだけでした。

とにかく、こんな堅苦しい高校ですが、唯一僕の興味を惹き付けたのが、体育祭の名物プログラムだった
「逆立ち競争」

いったい、どういう経緯で、こんな競技が、このガチガチ高校の体育祭のプログラムに加わるようになったのかは謎ですが、とにかく僕にとっては、確かに、一つの「救い」でした。

この競技、各クラス(一学年10クラスほど)から一人代表を選んで、全校で約30人、どれだけ遠くまで逆立ちをして歩けるか(時間は無制限)を競うというそれだけのものでしたが、その単純さゆえか、日頃の圧迫に対する生徒たちのストレスゆえか、毎年異様に盛り上がっていました。

クラスの代表になるのは概ね体操部で、それゆえ柔道部だった僕に声がかかるということはない。
それでも僕は、ひそかに1年の時から、この競技に出たくてしかたなかったのです。

「これに出なければ、僕の高校生活は無駄に終わる」

大げさに言えば、それくらい出たかったわけです。

そして、3年になり、ついにそのチャンスが巡ってきました。
「クラスに体操部がいない!」
僕は思い切って名乗り出て、クラスの代表になりました!

柔道部だったので(一応黒帯)、腕力には少々の自信があり、握力はクラスで一番でした。

が、しかし、実はですね、逆立ちがまともにできなかったんです!?

その日から、一人きりの猛特訓が始まりました。
(逆立ちができないことを断じてみんなに知られるわけにはいかない!)

早朝、ロッキーのテーマで目覚めて、走り込み。
通学用の自転車を思いっきり前かがみのハンドルに変えて、体重を腕にのせて走る。
授業中は、両腕で上半身を浮かせて座る。
放課後の柔道部の練習は、腕立て伏せを中心に。
帰宅後は、夜まで近くの小学校のグランドで逆立ちの練習、練習、また練習。

いやはやこんな具合で、勉強など一切せず、ただひたすら、ひたすら・・・・。

そして、体育祭当日!

全員が一列に並んで、同時にスタート。
逆立ちをしてしまうと、全くまわりが見えない。
50メートルラインを通過してからは、声援さえ聞こえなくなった・・・・・・

・・・・・・ついに、力尽きて、崩れ落ちる。

朦朧としたまま、周りを見回す。
一人だけ、まだ僕の後方で逆立ちを続けている。

徐々に僕に迫ってくる。
歓声が一段と大きくなる。

「抜かれるかもしれない」

そう思った途端に、あっけなく、彼は体勢を崩してグランドに倒れ込んでいきました。

「ぼ!僕が優勝!?」

砂ぼこり、歓声、そして

競技終了を告げるピストルの音・・・・・

この瞬間、

僕の高校時代が、
僕の高校生活のすべてが、
完全に、

終わったのでした。

小原啓渡

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