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ワークショップの可能性 2010-01-04

役者の自立 ?その2 自立支援

2010年がやってきました。前にいつ投稿したのか忘れるくらい間隔があいてしまいました。
こうした機会を上手に活かして、宣伝用のチラシや媒体からだけでは見えてこない部分を、フォローしたいと思いつつ、日頃の慌ただしさの中でついつい怠けておりました。
(いつまで続くかわかりませんが)年も明けた事ですし、心機一転まめな投稿を心かけたいと思っています。

さて、これまたいつの続きやらわからないくらい前の事ですが、役者の自立について今思っている事を書きたいと思います。
私は小劇場で働いているので、京都(関西)で活動している若手(概ね40代以下)の俳優さん達と多く接する機会があります。小劇場の主な使命は「育成」だと思っているので、そうした役者さんが自立できる支援事業を以前から行っているのですが、「自立」の最大の壁は「経済的自立」です。つまりプロの役者として喰ってゆく事がなかなかできないのです。とはいえ嘆いてばかりいても始まらないので、NPO劇研ではまもなく「経済的自立」を支援する具体的な事業を立ち上げたいと思っているのですが、それにあたって、だれを支援するの?ということについて考えている事をまず述べたいと思います。
 どのような役者さんを支援するのかを考えるにあたって、世の中の「プロ」と呼ばれる人が、だいたいどれくらい「修行」しているのかを、考えてみました。修行とは、たとえば職人など技術で飯を喰っている人が一人前になるまでにかかる時間ということで、(多くの仕事は修行中も給料がでますが、給料の有無はさておき)一人前としてやって行けるようになるまでに要する時間ということです。それでそれを実際に人に聞いたり、自分の経験等に当てはめてみてある数字にぶつかりました。それは「1万時間」です。英会話でも、楽器の演奏でも、身に付くのに要する時間は1万時間と聞いたことがあります。いろいろ見たり聞いたりすればするほど、どの仕事でも「1万時間」の修行も経ないで一人前になるのはほぼ不可能だと感じています。これはもちろんプロスポーツ選手や能楽師、ミュージシャンといった芸能のプロにも当てはまるんじゃないかと思います。つまり20才前後でプロになるような人でも、幼少の頃から練習して来ているので、1万時間の「修行」は積んでいるということです。

 さて、役者はどうでしょう?
 例えば小劇場出身の役者さんで、1万時間の練習量(公演に向けた練習や、養成所のレッスン、演劇部の練習等あくまで公的な練習の総時間数。公演の舞台に立っている時間も含む)を達成している役者さんがどれくらいいるでしょうか?1公演で小劇場では平均的な練習時間である120時間練習する劇団が、年4回公演して21年かかる計算です。
18才で演劇を始めて、年4回づつ21年38才での達成ですが、どうでしょう?
 この数字はなかなか説得力があり、まっとうだと思っています。つまり、世の中で(技術や経験を元にした仕事で)1万時間の修行もしていない人が「プロ」になれることは非常に希か、まずほとんどないのです。ですから、1万時間も修行していない「役者」さんが演技で喰えないのはむしろ当たり前と考えるのが自然です。(1万時間を経ていないと出演料はもらってはいけないという事では、もちろんありません)
 ただし付け加えるなら、もうひとつ重要なのはこの1万時間はあくまでも必要条件で、「プロ」になるための十分条件ではありません。つまり、才能(素養)がなければ仮に1万時間を経ていてもプロになれない人もいるという事です。

 とはいえ、まずは必要条件である1万時間をもとに、役者さんでいろいろシュミレーションしてみました。高校時代からプロの劇団の養成所に入り、その後実技の充実した演劇系の大学やフルタイムの養成所を経て劇団の準座員になったような人なら、28才前後で条件は満たすと思います。その中で仮に若くして才能を認められ20才ぐらいで多くの出演機会に恵まれれば、それこそ20代前半で条件を満たす事も十分に考えられます。
 しかし、高校を卒業した後に演劇を始めているひとが多い小劇場の役者さんにとっては、ちょっと違うシュミレーションになりそうです。仮に18才から始めて、28才でプロの役者で喰ってゆくと仮定します。つまり10年間で必要条件である1万時間を超えるためには年平均1000時間を要します。自由が利く学生の間なら年1000時間を確保するのはそう困難な事ではないかもしれませんが、卒業後アルバイト生活の中では、なかなか困難そうです。1年は約52週ですから、1000時間のためには毎週約19時間が必要です。つまり、仮に大学在学中の4年間はなんとかなったとしても、その後働きながら週5日4時間のペースを6年間維持することが必要なわけです。つまり、何らかの支援(出演料が出るとか、食費、交通費が出る、親等支援者からの仕送りがある)か職業劇団の座員になり、年間100ステージこなすといった状況でないと年間1000時間以上を10年間にわたって維持する事は事実上困難だと思われます。

 この考え方を元に「役者の自立支援」を考えるとき、支援のあり方は2つのパターンに分けられそうです。一つは1万時間に満たないいわゆる「修行期」の人の中で、「才能がある人」の支援もしくは「才能を発掘、育成する」支援。そして、もう一つは若くして必要条件をを満たすような、機会に恵まれた優秀な俳優さんが、その演技技術で生活できるようにするための支援です。つまり、18才で演劇を始めた人が、30才までに1万時間を達成するためには、それ相応の生活を送り、同時に数多くの公演機会に恵まれたあかしです。そうした人が「喰えない」のは「環境が悪い」可能性があるから、そこを改善して行きましょう。ということなのです。

ということで今までほとんど手をつけられずにいた、上記自立支援の後半の部分において、これから具体的な支援策を行ってゆこうとしている訳ですが、ちなみに私が支援すべき人達と考えるのは、(親から継続的に支援を受けられたなどの特殊な事情無く、十分な活動実績を維持しながら)30歳までに1万時間を超えた人(もしくは演劇を始めて12年未満で1万時間を超えた人)で、演技の技能を使っての経済的自立ができていない45才までの人。ということになります。

いかがでしょうか?
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