ヌーボーシルク見聞録 vol.15

 先日ラスベガスで、この春スタートしたシルクドソレイユの公演「KA」を観た。
「すごい!!とにかくすごい!!!」という稚拙な表現が、恥ずかしながら舞台業界で20年以上仕事を続けている私の正直な感想だった。逆に言えば、同業で あるが故に、よりこの作品のすごさが身にしみて伝わってきたのかもしれない。専門的な知識を持たない者にとっては、さほどでもない事も、その困難さを知り 尽くしている者には何倍ものインパクトがある、ということは往々にしてあると思うが、そういった観点で、私の「すごい!!とにかくすごい!!!」という感 想を受け止めて頂ければ有り難い。
 どの部分にスポットを当て、どう書けば「KA」のすばらしさを伝える事が出来るのかと考えると「いや、もう、とにかく観に行って下さい」としか言いよう が無いほどソフト面、ハード面共に究極の域に達している。前回のラスベガス訪問で観た「O」もすばらしい作品だが、ヌーボーシルクを見続けている私にとっ て「KA」が勝ると思う最大のポイントは、何といってもショー全体を貫くストーリー性の存在にある。
 概して、伝統サーカスは、個々のアーティスト達が持つ「技」あるいは「芸」がどれほど優れているかが全てであり、その究極の「技」を順次披露していくと いうショーケース的な形式が一般的だった。それに対しヌーボーシルク(新しいサーカス)は、他ジャンルの要素を取り入れて、より複合的に演出する事で、洗 練されたアーティスティックなエンターテイメントに進化させた。しかし、どうしても「技のオムニバス」という形から抜けきれない部分を持っており、「個人 技」をどう繋げて一つの作品にまとめ上げるかが大きな課題となっていた。つまり、ショー全体を貫くコンセプトやテーマは表現できても、世界でトップクラス の「技」を集めた大掛かりな作品ほど、演劇等が持つ「ストーリー性」を展開する事が困難だったと言える。
「KA」はその課題を打ち破り、明快なコンセプトのもと、完全なるストーリーを作品の中に取り込む事に成功している。その要因には、演出家ROBERT LEPAGEの天才的な創造力は言うに及ばず、ハード面においても、彼の思いを現実の形に落とし込む事を可能にした最先端テクノロジーの集積、そして巨額 の資金があるだろう。
 アートとテクノロジーの融合、そしてエンターテイメントに投資される巨額の資金が空回りする事無く新たなマーケットを生み出す経済構造においても、ラス ベガスからまだまだ目が離せそうにない。そして「KA」は、これを観るためだけにラスベガスに行ったとしても意味のある特筆すべき作品である。


P.A.N.通信 Vol.59に掲載

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