ヌーボーシルク見聞録 vol.14

 シルク・ド・ソレイユの「アレグリア2」を観た。
 1992年日本での初公演「ファシナシオン」以来、「アレグリア」「サルティンバンコ」「キダム」とすべての公演を観ているが、今回は、ラスベガスでロ ングランを続けている「オー」「ズーマニティー」といった、テントではない専用劇場でのショーを現地で観て来た後だけに、正直なところ満足度は低かった。
 もちろん、テント公演にはテントならではの雰囲気や面白さがあるが、そのコンテンツのためだけに巨額の資金を投じて作られた劇場での公演には、凝りに 凝った舞台機構のダイナミズムがある。金をかければ、いい舞台ができるとは限らないのも事実だが、舞台セットの豪華さや使用されている最新のテクノロジー を観るだけでも十分な価値がある。
 サーカスは元来、人間の肉体及び運動能力の極地を表現する事で観客を魅了するが、その部分に斬新な衣装や音楽、あるいは演劇やダンスといった他ジャンル の要素や演出が加味されて「ヌーボーシルク」へと変革を遂げて来た。そして、今そこにテクノロジーという要素がさらに付加され始めている。
 テクノロジーつまり最新の科学技術とアート、そして生身の人間が織りなすコンプレックスは、私が今、最も興味をひかれるフィールドであり、概して対局に あるかのように捉えられている科学とアートの融合は、現代社会が直面している様々な問題を解決する一つの切り口であるとさえ考えている。つまり、生身の人 間や、哲学的な意味も含めたアートと隔絶した科学は、無味乾燥なものであり、人類を滅亡へと導く凶器ともなり得るからだ。
 今後、アート感覚を持ったエンジニア、そしてテクノロジーの知識を持ったアーティストの存在が増々注目を集めることになるだろう。
 今、ラスベガスでは最新のテクノロジーを駆使した新作「カ」が上演され好評を博しているが、今回「アレグリア2」に私自身少し古さを感じたことで、ヌー ボーシルク(新しいサーカス)の「新しさ」が次の段階に来ている事を実感せずにはいられなかった。
 新しさを発信し続けるには、常なる挑戦と改革が必要だ。ただし、そこに「調和」と「融合」というコンセプトの存在が重要であるということも忘れてはなら ない。


P.A.N.通信 Vol.58に掲載

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