ヌーボーシルク見聞録 vol.13

 ジンガロの「ルンタ」東京公演を観た。
 今回、初来日ということもあり「高いなぁ」と思いつつも24.000円のチケットをあえて買ったが、やはり色々考えさせられる公演となった。
 内容に関しては、好き嫌いの問題も含めて賛否両論は当然だが、今回私が取り上げたいのは主に料金と客席区分の問題だ。私の場合、制作者もしくは実際に海外からパフォーマンスを招聘するプロモーターあるいはプロデューサーとしての立場があるため、純粋な意味で一観客の立場で発言するには無理があるが、逆に両方の立場を兼ねている身として述べてみたい。
 海外からパフォーマンスを招聘する場合、舞台セットの大きさ、出演者、スタッフの数が多くなればなる程そのコストは膨れ上がる。ましてや今回のように馬25頭という事になると輸送にかかるコストは莫大なものとなるのは容易に想像がつく。もちろん主催者側もできるだけ安い料金の設定を検討されたに違いないが、公演の収支計画を立てる場合、公演数と総動員数の設定が微妙な要因になってくる。特に過去のデータがない初来日の場合、どれくらいの動員が見込めるかを見極めるのは非常にデリケートな作業となる。この動員に大きく影響するのが料金であり、客席数の限界も含めた試算は非常に難しい。料金をおさえて動員を延ばすか、高い料金でも確実視される動員数から公演数を割り出すかなど、主催者にとっては大きな決断が要求される。
 今回のジンガロ「ルンタ」の場合、収支計画における内状は、協賛金の部分も含めて想像の域を越えないが、かなり厳しいものがあったのではないかと感じている。プレミアムシート:24.000円、SS席:18.000円、S席:14.000円、A席:8.000円。私は1列目のプレミアムシートを買ったが、正直、内容に対する満足度を考えた場合「高すぎる」という感想だった。プレミアムシートは1列−4列で5列目からSS席となる。1列違うだけで6.000円の差がうまれる。椅子の幅や質が変わるわけでもなくこの違いが生じるのは、しかたない部分もあるが、やはり観客の立場としては納得し切れないものが残った。
 舞台のジャンルや観客の目的によっても違うが、舞台に近い方が良い席であるとは限らない。歌舞伎等では、いろはにほへと…の順で舞台側から席が決められていた習慣があり、その中でもっとも良い席は「とちりの席」つまり7列−9列と言われ ている。私の場合は、舞台の床面が全体的に見渡せる20列目あたりが好みだが、料金との兼ね合いで客席を上手に選ぶ知識も必要になってくるだろう。
 詰まるところ、収支計画に伴う主催者側の適切な料金設定の努力と、納得のいく客席選びができるチケット販売システム、そして観客側のいい席を選び取るための経験と知識、これらがうまく結びついた時、より良い公演が成立するのだと思う。

P.A.N.通信 Vol.56に掲載

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