ヌーボーシルク見聞録 vol.12

 今回は前回の「0」と同じく、ラスベガスで人気の「ズーマニティー」を取り上げて みたい。「ニューヨーク・ニューヨーク」というホテルに併設された劇場でヒットしているヌーボーシルクをベースにしたショーだが、まさに他民族国家アメリ カを象徴するような内容で楽しめる。
 客席の中にステージが伸びるエプロン型の舞台で「0」や「NewDay」と比べると規模は小ぶりだが、ブロードウェイの「ロッキーホラーショー」の現代 版とも言えるようなちょっとお下劣でとんがった感じが新鮮だった。ゲイやフリークスをふんだんに、かっこよくまたユーモラスにちりばめた演出がヌーボーシ ルクの奇抜な演技とうまくコンプレックスして、アーティスティックな大人のキャバレーに仕上がっている。
 ショーのナビゲーター役の力量もあるのだろうが、観客の巻き込み方が絶妙で、最初はさくらとは思えない初老の夫婦がステージに上がり、アクロバティック なダンスを披露し始めるショーの大詰めは、過激な内容から心温まるシーンへの落とし込みがうまくなされていて、観客の共感をうまく誘っていた。
 また、人は動物というカテゴリーにおいて、民族や人種、容姿や性的嗜好の違いなども超越して共存できるというテーマが作品の根底にあると思うのだが、そ ういった現代の国際社会が抱える「調和と共存」の問題を、アートとユーモアという素材でうまく組み立て表現している点も、単なるエンターテイメントショー にはない主張を感じることができ好感が持てた。とは言え、上品さがお好みの方や子供たちには少々刺激が強すぎてお勧めはできないが、アメリカのコンテンポ ラリーカルチャーに興味がある方にはたまらない内容だろう。
 概してヌーボーシルクにおける初期の作品群は、文字通り新しいサーカスというものが多かったが、この「ズーマニティー」がそうであるように、最近はサー カスという要素が前面に出ない作品、たとえて言うなら何時間も煮込んで素材の原型をとどめないスープのようにコンプレックス化が進んだ作品が多くなってき ている。音楽や映像、演劇、ダンス、美術、衣装まさにアートのあらゆる要素がジャンルを超越する形で融合し、究極の身体表現としてのサーカスと混在して、 高いクオリティーのエンタテイメントとして成立し始めている。
 現在日本ではカジノ法案に関する検討がなされているが、観光立国を目指す行政の方々も含めて皆さんに、集客都市として世界に名をはせるラスベガスとはど んな街なのか、また、世界のトップレベルのクオリティーを持つエンターテイメントとはいかなるものなのかを是非とも体感していただければと願っている。


P.A.N.通信 Vol.54に掲載

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