ヌーボーシルク見聞録 vol.7

 1980年代半ばから胎動を始めた新しいサーカス(ヌーボー・シルク)の潮流は、伝統的なサーカステクニックを骨幹にしつつ、演劇や音楽、美術といった 他ジャンルと融合し、多岐に渡る複合的な進展を見せてきた。
 世界各国でオリジナリティー溢れる数多くのパフォーマンス集団が登場し、今までにない新しいエンターテイメントとしてその位置を獲得している。その中で もカナダを本拠地とするシルク・ドゥ・ソレイユは、世界最大級、最高峰のスペクタル集団である。
 1992年の「ファシナシオン」、94年の「サルティンバンコ」、96年の「アルゲリア」に続き、2000年の「サルティンバンコ2000」では、日本 5都市で総勢124万人の観客を動員し、未曾有の大絶賛をあびた。
 身体能力の極限を表現する卓越したサーカステクニックは、国境・人種を超えて観客の度胆を抜き、言い知れぬ感動を与える。しかし、シルク・ドゥ・ソレイ ユの真骨頂は、それにも増してショー全体を貫く芸術的な演出にあると言えるだろう。観る人を日常生活から引き離し、非日常な異次元へと導いて行く緻密なま での演出は、観客が巨大テントに入場する時点から既に始まっている。マジカルな舞台装置、エキゾティックで前衛的な音楽や衣装、幻想的な照明効果など、作 品を構成するすべての要素に、洗練されたセンスとユニークな創造性が満ち溢れている。
 そのシルク・ドゥ・ソレイユが、他の作品よりもストーリー性を持たせ、パフォーマンスと演劇の要素をより深く統合した作品「キダム」を引っさげて再び来 日する。
 サーカスというジャンルを超越し、従来、相容れないと思われてきた芸術性とエンターテイメント性を絶妙のバランスで融合した統合芸術の粋は、今回も観客 の知的欲求を十二分に満たしてくれるに違いない。
 観る人の年令を問わず、十分に楽しむことができるハイクオリティーなエンターテイメントの真髄を、是非とも堪能して頂きたい。

P.A.N.通信 Vol.42に掲載

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