アーティストインタビュー
野村 誠(作曲家)


野村 誠 プロフィール
8歳で自発的に作曲を始める。
 作品に「せみ」(CD)、「踊れ!ベートーヴェン」(ジャワガムラン+児童合唱)、「だるまさん作曲中」(ピアノ協奏曲)、「路上日記」(CDブッ ク)、「タコとタヌキ 島袋野村芸術研究基金」など。
 第1回アサヒビール芸術賞受賞。
 現在、「しょうぎ交響曲の誕生」(CD)、「しょうぎ作曲集」(楽譜+本)、即興演奏に関する本、老人ホームでの共同作曲に関する本やCDなどを準備 中。

「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。
今回は、第1回アサヒビール芸術賞を受賞し、幅広く音楽活動を続ける作曲家の野村 誠さんにお話を伺いました。

小原
 野村さんの音楽活動には、音に対する非常に根元的な問題提議と、独創性を感じるのですが、作品を創りあげてゆく過程での、具体的な方法のようなものがあ れば伺いたいのですが。

野村
 僕の場合は、壁にぶつからないと何も創れないんです。自分の知らない新しい世界に行こうとすると、どこかで突然壁にぶつかる。そしてどうにも出来ないっ ていうふうに、一旦ダメかもと思うんですね。ですから壁を探すのが最初の作業で、そして見つけた壁を乗り越えようとするのが次の作業。その結果越えられた ら、後はその事を人にどうやって伝えるかという作業なんです。

小原
 壁にぶち当たるという事と、壁を探すという事とは微妙に違うと思うのですが?

野村
 壁にぶち当たるっていうのは、先にゴールが見えていて、そのゴールを目指してる途中という感じなんですね。でも、壁を探すっていうのは、ゴールがわかっ てないわけです。何となくこの方向に行けば、自分の知らない新しい世界に着くのではないかっていう為の壁なんですね。だから、越えてみて初めてこれがゴー ルだったのかというのがわかるんです。

小原
 壁を見つけて、その壁を目の前にした時、その壁を乗り越える方法論的なものはあるのでしょうか?

野村
 無いですね。方法論を使って越えられるんだったら、壁じゃないんですよ。ですから壁を見つけるところまできたら、かなりいい線まで来たってことなんです よ。今まで知っている方法論ではどうやっても越えられない壁に出会うと「これはヤバイぞ」と思いますよね。でもヤバイっていうことはチャンスなんですよ ね。これだけヤバイって事は、何か "魔法"を起こすか、ひねり出すしかないんですね。それで、ひねり出した結果、このことだったんだって見えてきたり、ひらめいたりした時っていうのは、 「ヨッシャ!」って思います。それが創る楽しさというか病み付きになるところでもありますよね。

小原
 "魔法" っぽい感覚みたいなものっていうのを、もう少し具体的に話していただけますか?

野村
 作業をしている過程で、今 "魔法" 使いましたとか、そういう感覚じゃないんですね。後から考えると何でここでこう行けたのかなって、魔法でも起こったのかなという感覚なんです。

小原
 では魔法っぽい感覚や、ひらめきを得るために心掛けていることはありますか?

野村
 捨てるんですよね。壁があって、その壁の六割ぐらいまでは確実に登れるけど、十割は行けないっていう方法論は一杯あるじゃないですか、でもそういう今ま で使った方法論を見切って、全部捨てるんですよ。そうするとゼロというか、もう一段も登れなくなっちゃうんですね。身動きも出来ない。捨てるというのは、 すごい辛抱がいるんですよ。だから、これは絶対越えて向こうを見てやるっていう強い決意というか、気持ちの表れなんですね。どうやって登るんだろうって必 死にもがく。そういう状態になって初めて何かが生まれてくるんですね。

小原
 では出来た作品をお客さんに観てもらう、聴いてもらうというのはどういう意味があるのでしょうか?

野村
 それは難しい質問ですよね。まあ、創るのは好きで発表するのも好きなんですけど、でもまず僕の場合、出来た作品を見せるのが怖いんですね。

小原
 共感してもらえるかどうか不安ということでしょうか?

野村
 そうではなくて、自分にとっても、いいのか悪いのか本当に分からないんですね。壁が高ければ高いほど、それを超えて出来た作品が、本当にいい作品なんだ ろうかと。いい作品のような気もするし、失敗のような気もする。こんなことやっていていいのだろうかというのもあるんですね。だから発表するのはとても怖 いんですよ。
 だから僕の場合、発表するというのは、出来た作品をどう考えようか、どう鑑賞すべきなんだろうか ―― 創ってしまった結果、後から色んな事が分かってきたり、見えてきたりする−−そういう事を確認するというか探していく作業かもしれませんね。

小原
 最後に、野村さんにとってあえて一言で創造とは?

野村
 今思いついたのは "未来への手紙" っていうことです。
 今の自分が、何かある作品を創るとするじゃないですか。鑑賞する人っていうのは自分も含めて、それに対して未来なんですよね。今、目の前のお客さんもそ うだし、50年後に見る人もいるわけです。おそらく50年後というのは世界情勢とか、考え方とか、常識とかいろんなものが違っている可能性はあるわけです よね。その未来に、今の真実を基に創ったもの、僕が生きている今この時の僕が感じた真実を発信するメッセージというようなものでしょうか。

P.A.N.通信 Vol.60に掲載

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