アーティストインタビュー
やなぎ みわ (現代美術家)


やなぎ みわ プロフィール
神戸生まれ。現在京都在住。京都市立大学大学院美術研究科終了。
1993年よりエレベーターガールをモチーフにした作品を写真作品を制作し、国内外の展覧会に参加。現在は、若い女性が自らの半世紀後の姿を演じる写真作 品「マイグランドマザーズ」シリーズ、実際の年配の女性が祖母の記憶を語るビデオ作品「グランドドーターズ」などを制作している。
2004年1月、グッゲンハイム美術館(ベルリン)から世界巡回の個展がスタート。
2004年7月、丸亀猪熊源一郎美術館でも個展開催予定。


「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。今回は若い女性が自らの半世紀後の姿を演じる写真 作品「マイグランドマザーズ」シリーズなどで世界巡回の個展を開催中の、やなぎみわさんにお話を伺いました。

小原
   まず、やなぎさんが創作をされる場合のプロセスに関してお伺いしますが、やはり、作品のテーマを決めるところからスタートされるのでしょうか?

やなぎ
 一番初めは本当に直感的なものですよね。直感的に欲しいと感じるもの、やりたいと思った事をまず自分の中で明確にしますね。例えるなら、子供が何か欲し がるというのと同じ、すごく原始的欲求みたいなものです。何故それが自分にとって必要なのか、何故それを作品にしてまで見たいのか、そういう事は後から考 えていきますね。

小原
 欲しいものがあっても、それがこの世に現存しない場合、自分で創り出すしかない、というような感じでしょうか?

やなぎ
 そうですね。だから創作している時は、欲求が満たされているらしくて、チャンネルが切り変わるみたいに物欲とかそういうものが極端に低下するんですよ。

小原
 自分の欲求を満たすための創作という部分と、人に見せるという部分もあるとは思うんですが、その辺は如何でしょうか?

やなぎ
 それらのバランスは結構複雑ですね。確かにすべての作品に対して、第三者の目というのはすごく意識します。けれど、出来上がったものを例え自分以外の誰 も見なかったとしても、それでも創りたい、存在して欲しいと最終的に思える事が一番理想ですね。それが最も幸せな状態だと思います。
 もちろん作品全部がそうではないですね。何点も作っていく中で1つでもあればいい、あるからやれるという感じです。

小原
 頭の中で描いていたものを実際作品として再現していく過程において、いろいろ難しい面があると思うんですが?

やなぎ
 それは勿論あります。やはり創り始めたらどうしても頭で考えたとおりには絶対にいかないですから。どこかで必ず妥協や諦めもありますし。でも逆に再現し ていくにつれて、また違う面白さ、別の可能性がそこに出てきたりしますね。
 先ずあり得ないですが、私が思うに、もし頭の中で考えていたものが100%再現できたとしても、多分失望すると思うんです。おそらく創ってみて良かった と思えるのは、頭の中で考えてきたもの以上に良かった時だと思います。ごく稀なんですが、奇跡的にそういう本人が考えていた以上のものが出るような、幸せ な事が起こるんですよ。
 それには様々な要因があると思うんです。その時の体力や、精神状態、あと時代やそのタイミングであったり。いろんな要素ががっちり絡み合ったり、もしく は反作用を起こしたりすると、そういう奇跡的なものができるんだと思います。やはり、頭の中で考えていたものと、その結果できた作品とは違うものですか ら。それは楽しみではありますね。もちろん失望もありますけれど。

小原
 一般的には、なかなか100%満足のいく作品が出来ないから創作を続けていける、というような話を聞いたりしますが…?

やなぎ
 私の場合はいつも次が最後だと思っています。師から言われたんです(笑)。次の作品が最後だと思えばなんでも出来る、というような事を。ただ単純に比喩 的というか“心がけ”としてではなく、本当にそう考えて、本気で思って、という事でした。
 体力面、精神面だけでなく、たとえ経済的な面であったとしても、これが最後だと思えばどんな事でもできるというか。

小原
 それは、例えば手元に100万円があって作品を創る場合、今後の生活の事を考えて半分の50万は残しておこうという事ではなく、100万を全部作品に 突っ込むというような事でしょうか?

やなぎ
 100万あったらその100万を全部使った後、足りなくなったら更にもう100万借金して創るんですよ。破滅的に聞こえるかもしれません。でも、そうい う気持ちでやっていると、実際一つ良いものが出来たら必ず次を創ろうと思うんですね。そして、その時もしも膨大な借金があったとしても、それは必ずどうに かなるものだと。
 事実それも本当でしたね。実際にそうやって経済的に辛い時期が続きましたけど、それでも何とかなると信じて今までやってきたという感じです。
 今創っているのはプロジェクトもので、来年、再来年も続くタイプのものなんですけども、今でも同じ思いですね。

小原
 アーティストとしての強いこだわりを感じるお話ですね。
 では、最後に、あえてお伺いします。やなぎさんにとって『創造』とは?

やなぎ
 難しいですね。中学生の頃からもの創りを始めてからずっと、ものを創る事が日常になっているので。
 あえて言うなら、未だ見ぬ山を求めて、旅を続ける様なものでしょうか。若山牧水の歌の「いざ行かむ、行きてまだ見ぬ 山を見む (さあ行こう行ってまだ 見た事のない山の姿を見たい)」といった感じですかね。
 口にしてみると、かなり自分に酔ってますねえ(笑)

小原
 興味深いお話どうもありがとうございました。


P.A.N.通信 Vol.49 掲載

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