アーティストインタビュー
江村 耕市
(ドローイングアーティスト・グラフィックデザイナー)


江村 耕市 プロフィール
大阪生まれ。京都市立芸術大学デザイン科卒。
映像・音楽・ダンス・グラフィック・造形・出版…とジャンルの枠を飛び越えた活動を繰り広げている「映像+パフォーマンスユニット キュピキュピ」のメン バー(主にビジュアルデザインを担当)。
「キュピキュピ」として、パリやニューヨークなど国内外の美術館等で映像作品やパフォーマンス作品を発表。
個人としてドローイングやアニメーション、文章などの作品も発表している。


「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。今回は、「映像+パフォーマンスユニット キュピ キュピ」のメンバーであり、また京都嵯峨芸術大学の非常勤講師でもある江村 耕市さんにお話を伺いました。

小原
   非常に漠然とした質問ですがあえて伺います。江村さんにとって創造とはなんでしょうか?

江村
 「創造」という言葉に対してはあまり考えてこなかったんで答えにくいですが、私はモノを創りながらいつも笑っている状態でありたいと思っています。 自 分なりにモノを創ったり絵を描いたりしだしたのは、貧乏旅行をした時からです。それ以前も広告デザインなどの仕事をしていたんですが、面白くない部分が沢 山あって、もう一つピンとこなくて。それと違うところで、何かモノを創りたいなと思っていました。それでインドやトルコ、東南アジアとかを旅したんです。 知らない土地で面白いものを目にしたとき、メモのつもりで必ずスケッチをしていたんですよ。すると絵を描いている僕に興味を持った現地の人との間にコミュ ニケーションが生まれる。言葉を交わさないのに、絵を通してその「場」がとても面白くなるんです。

小原
 その貧乏旅行の中で、本格的に何かを創るきっかけみたいなのはあったんですか?

江村
 本格的に作品として創ろうと思ったきっかけは、スペインの南のピレタという小さい洞窟にある、何万年か前の壁画です。同じ壁に小さな魚と大きな魚が描い てあるんですね。解説してくれる現地のおっちゃんの話では、絵に使ってある土の色の違いで解るらしいのですが、2尾の魚が描かれたのに5000年以上の時 間差のある共同制作物なんだそうです。説明を受けて、すごく面白くて。
 絵を描くことの一番根っこの部分は、こんなことかなぁと本当に思ったんですよ。

小原
 というのは?

江村
 実際、なんのために描いたかよく分からないじゃないですか、その絵は。でもおそらく、“こんな魚がとれた!”みたいな、一つ一つすごくシンプルな喜びだ と思うんですよね。そんなシンプルな思いがきちんと形で創られたものって、距離や時間の離れた人の間にぽんと置いておいたら、そこから色々な事に影響して いく。
 絵や、例えば音楽とか形に残らないものも含めて、その人の思いがシンプルで分かりやすく、なおかつ良く出来たもので表現されると、別の人にいろんな影響 を与える。そんなイメージがあるんですよ。そういうことをしていたいなと。

小原
 良く出来ているとおっしゃいましたけど、江村さんの中ではどういうものなんでしょうか。

江村
 言葉でねえ…、「良くなくない」モノなんですけど(笑)あえて言うなら完成度のことだと思うんですが、完成度という言葉はあまり気持ちよく聞こえない場 合もあるからちょっと違うかも。ニュアンスの部分。やはり、本当に良く出来ているなと思えるモノとしか言いようが無いかな。

小原
 江村さんの好みで言うと?

江村
 最近の僕の好みで言うと、緊張と緩和のバランスが良いもの…、基本的に緊張感のあるものが好きなんですけど、それがガチガチだとしんどいから。おかしい けど緊張感があるとか、アホみたいだけど緊張感があるとか、そういうものが好きですね。それがバチッと決まった物を良く出来てるなと感じます。キュピキュ ピ的な感じは全部そういうものだと思ってます。やっぱりその方が気持ちいいのかな。僕たちがまずね。
 単純に面白さ、キレイさだけではなく、そこになにか筋の通った緊張感が走っているという感じ。その方がゆるい所も逆に分かりやすくなるし、効果的に伝わ る。
 例えば、小学生の子が自由に描いた絵というのはすごく面白いうと思いますけど、それだけでは少し物足りない部分もあるんですよ。ずるい所や計算、狙いと かも微妙に入っていたりした方が緊張感が出てくる。そんな両方が必要じゃないかと最近思っていますね。

小原
 そういうモノを自分が創ることによって、人との関係性みたいなものがあるんですかね。そういう喜びみたいなものが。

江村
 旅をしているときにはやたらめったら考え事をするんですよ。その時出た一つの結論は、自分が何をしていても、していなくても、「あらゆるものが影響し 合っている中に居る」という絶対的な前提があるということです。じゃあ、その中で楽しいとか面白いというベクトルの影響を自ら作っていきたいと思ったんで す。どうせ関係を持つのだから、能動的に自分から関係を持とうとしようと。
 例えば、見知らぬ場所で言葉も分からずどうしようもない時でも、ちょっと絵を描くというような簡単な行為で、関係性を作り始められる。自分から何かする 事によって、その他の受動的な関係のはじまりを排除できる。広告関係のデザインの仕事が面白くなかった答えも、その点にあったように思いますし。

小原
 最後に創造とは、あえて一言で言うと?

江村
 能動的な意味でいうと、「武器」ですかね。創造=武器では無くて、創造しながら楽しくて笑っている状態が武器なんですけれども。
 既にある、あまり有難く無いシステムや権力から少し離れて自分なりに生きぬく為に有効な手段というのは、好きな物を創っていて大声で笑っている姿だと思 うんです。

小原
 本日は興味深いお話、有り難うございました。


P.A.N.通信 Vol.48 掲載

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