アーティストインタビュー
ルティ・カネル (演出家)


ルティ・カネル プロフィール
 1955年、イスラエル生まれ。
テルアビブ大学、ニューヨーク大学、NYのHBスタジオで演技と演出を学ぶ。
アイスキュロスなどの古典や、イングマル・ベルイマンなどの現代作品を多数演出。
1999年にモシェ・イズラエリの小説「野ねずみエイモス」を脚色・演出し、イスラエル・アッコ演劇祭の最優秀演出賞を受賞。現在、テルアビブ大学台芸術 科主任講師。
 「野ねずみエイモス」は東京・シアターΧ(カイ)で開催の第5回国際舞台芸術祭参加作品。



「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。
今回は9月14日-15日、府民ホール・アルティで「野ねずみエイモス」の公演が決定している演出家、ルティ・カネルさんにお話を伺いました。

小原
 あなたにとって「創造」とは?

ルティー
 創造というのは、ひらめきの瞬間であると思います。
  1秒の断片とも言えるその一瞬に、ありふれた現実を超越する何か、それは通常隠れているものなのですが、その超越する何かを知覚する能力が瞬間的に与えら れるのだと思います。

小原
 その瞬間に何が起こるのでしょうか?

ルティー
 創造は、見た目には分割していて、関与していないように思われる事物の間に関係性をつくり出し、個別な要素を芸術的な表現へ統合していく力だと思いま す。
 創造の過程は、どんな事でも起こり得る、何が起きても不思議ではないという感覚において、私達の仕事における非常にエキサイティングな部分です。

小原
 「事物の関係性」に関して具体的に挙げて頂けますか?

ルティー
 演劇の場合で言いますと、実際に与えられた要素、つまり、脚本、限定された空間、役者などですが、これらの要素の関係性から出てくるものは予測できませ ん。「新しい、価値のある何かが出てくるだろうか?」という不安は常に伴いますが、要素となる事物の中にある創造の核は、隠された秘密のように、私の好奇 心を強くそそるもなのです。
 そしてアーティストというのは、創造の隠れた秘密が解読され、創造の本体が出現するまで、その秘密に、より近付く必要性を強く感じる人達だと言えるで しょう。

小原
 あなたが創造活動において、最も重要であると思われる事は何でしょうか?

ルティー
 内面の世界や無意識の世界、あるいは夢の中に隠れている世界とコンタクトを持つ事です。
 舞台の世界というのは、現実に意識下で考えていることの代替え、あるいはその象徴的な形によって特徴付けられる、夢の中の世界のようなものだと考えてい ます。そして、その無意識な世界に私達の個人的で集合的な真実が潜んでいるのだと思います。
 私の実際の仕事に関して言うなら、役者が夢の中の世界にコンタクトできるように手助けする事。そして彼等の至極個人的な隠れた欲求と不安から、明確で公 的な表現への流れを生じさせることが重要だと考えています。
 ただ、これらの創造に関わる内的な源泉は、危険なゾーンに存在しています。時として、創造の過程は、私にとって、感覚と観念と具象とを相手に踊る、危険 なダンスのように思えることがあります。

小原
 オリジナリティーに関するあなたの意見を聞かせてください。

ルティー
 独創性は、既に確立し当然と思われている慣習や常識から、はずれる勇気を持つことから生まれるものです。しかし、しばしば、確立された慣習はクリエー ターの創造的な活力を消滅させ、再検証を強要します。
 独創的なクリエーターというのは、個人の内面でわき上がる「こうしろ!そうするんだ!」という衝動的なささやきを、例えそうする事によって、規範的な期 待や予想を裏切ることになろうとも、その囁きを信じて行うのでしょう。「私たちは新しい芸術の形態を必要としている。」
 チェーホフの「かもめ」の中でトレープレフは言い、彼は執拗に新しい芸術の形を探求しますが、私は時として創造的な作品は、古い形を新しい方法で用いる ことで生まれると信じています。

小原
 本日は有り難うございました。
 アルティでの公演楽しみにしています。


P.A.N.通信 Vol.41 掲載

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